上述した2014年のスウェーデンの「牛乳の摂取量と女性および男性の死亡率と骨折のリスク:コホート研究」は、骨折だけでなくて死亡率についても、牛乳を多く飲むグループのほうが死亡率が高いという結果(男性についてはわずかな増加でほとんど変化はない)になっています。女性の場合、1日3杯以上の牛乳の1日1杯未満と比較した場合の調整された死亡ハザード比は1.93でした。
乳業界はこのレポートに度肝を抜かれ、さまざまな反論を試みています。
一般社団法人Jミルクは「この論文の内容については、後に、著者のうち中心になっていた2名の教授を含むグループが、他の類似疫学研究を含めてのメタ解析を行ったところ、そうした関連性は結論できなかったと報告しています」と書いています。
これだけを読むと2014年に発表されたコホート研究が、著者ら(Karl Michaëlssonら)自らによって否定されたというようにも読めますが、そうではありません。たしかにKarl Michaëlssonらは、メタ解析で関連性が見つけられなかったと言っていますが、それはそれぞれの研究で管理されていた交絡因子が異なっており不均一性が激しかったためだといっており、Karl Michaëlssonらは、今後さらに大規模なコホート研究が必要だと結んでいます。
さらに一般社団法人Jミルクは、2014年の論文について、「その後、他のグループからも上記のスウェーデンの論文を含む29件の前向きコホート研究のシステマティック・レビューが報告されており、その中では、スウェーデン論文の異質性の高さが指摘されています。」とも書いていますが、このメタ分析の資金を、3つの親乳製品グループGlobal Dairy Platform、Dairy Research Institute、Dairy Australiaが提供しています。
Eating cheese does not raise risk of heart attack or stroke, study finds theguardian
Global Dairy Platformは、明治ホールディングスを含む乳業界の連なる委員会で形成される乳推進団体、Dairy Australiaは、オーストラリアの乳業界の利益を約束する組織です。
また、一般社団法人Jミルクの示した29件の前向きコホート研究のシステマティック・レビューはこれら乳業界から資金提供をうけただけでなく、このレビューに参加した研究者たち自体がこれまで乳業界から資金を受けたり、賞を受けたり、ネスレ研究所のコンサルタントを兼任していたりして乳業界と密接な関係にあります。
こういった利益相反については、近年、論文を書く際に情報公開をすることが求められるようになっており、わたしたちも論文に記述されている「Conflict of interest」「Competing interests」などの項を参照して利益相反の有無を確認することができます。29件の前向きコホート研究のシステマティック・レビューは下記の論文ですので確認してみてください。
(補足しておきますが、Karl Michaëlssonらによる2014年のスウェーデンの「牛乳の摂取量と女性および男性の死亡率と骨折のリスク:コホート研究」では利益相反はありません。)
2014年のスウェーデンのコホート研究を行ったKarl Michaëlssonは、2020年5月に「脂肪含有量に関係なく、非発酵乳の摂取量の増加は、全原因死亡に関連する」という研究を発表しています。
じつはスウェーデンのコホート研究の発表が行われた翌2015年に、日本からは「牛乳を飲む男女と死亡率は低い相関」(Milk drinking and mortality: Findings from the Japan collaborative cohort study)という研究が発表されています。一般社団法人Jミルクはスウェーデンの研究を否定する材料としてこの日本の研究も持ち出していますが、上述した2020年のKarl Michaëlssonの論文は、日本のこの研究を「リスク分析の手法として適切ではない」としています。
乳と死亡率の関係についての2019年の別の論文は、牛乳摂取と死亡リスクの有意な関連をしめしています。(牛乳摂取による死亡リスク比は平均1.11。ガン死亡リスク比についても平均1.11)また食品代替分析において、乳製品の代わりにナッツ、マメ科植物、または全粒穀物を摂取すると死亡率が低下しました。